事例紹介
―相続の専門家・司法書士に相談しないとこうなる―
当事務所にご相続手続きのご依頼を下さった方の事例です。
お父様が亡くなって、遺言が公正証書で作成されていたため、すぐに名義変更手続きをしようと準備を始めたのですが、その遺言の内容に大きな問題がありました。
お父様は2度の結婚をされていたので、最初の結婚の時のお子さんが2人。次の結婚の時のお子さんが3人いらっしゃいました。
自宅と隣り合わせで所有されていた以下4筆の土地(合計すると約200坪)につき、遺言に記載されていた内容に問題があったのです。
4筆の土地の内訳
- Aの土地 34.91㎡
- Bの土地 90.31㎡
- Cの土地 320.50㎡
- Dの土地 217.90㎡
遺言の内容
「遺言者は、その所有する4筆の土地を、自宅側より順次、遺言者の二男に100分の39(約78坪)、遺言者の長男に100分の22(約44坪)、遺言者の長女に100分の39(約78坪)ずつの割合でそれぞれ相続させる。」
皆さんは、上記を読んで、遺言者が意図していたことがお分かりになりますか?
「自宅側より順次」という表現を重視すれば、3人のお子さんに渡す土地の位置関係が大切なんだ、と読み取れますが、「39/100、22/100、39/100ずつの割合でそれぞれ相続させる」という表現を重視すれば、4筆の土地それぞれに3人が指定された割合で持分を持って共有としなさい、とも読み取れます。
あるいは、4筆の土地をひとまず合筆(1筆の土地にすること)し、自宅側から指定した割合になるように土地を3筆に分筆して、それぞれを取得する???
そうなんです。この遺言の内容では、遺言者の意図が第三者には特定できないため、この遺言だけでは3人のお子さんに名義を変更することができなかったのです。
法務局の見解は、「意図が特定できないので、3人以外の相続人も含めた、相続人全員による合意書(上申書)に、どのように名義変更するべきかを記載し、相続人全員の印鑑証明書を添付しなければ登記申請を却下する可能性もある、というものでした。
これは非常に困る訳です。最初の結婚の時のお子さんが、上記のような合意書に署名・捺印してくれる保証はありませんし、もし、2人のうちに行方不明の人でもいたら・・・。
そこで、遺言者であるお父様が公証人に遺言作成を依頼した際に、何かメモなどを残していないかを依頼者に徹底的に探して頂きました。遺言書を作成したときの遺言者の意図が、残されている書面などから明らかであるならば、それらの書面と、3人のお子さんの合意書で足りるはずではないか、と考えたからです。
お父様は、ちゃんと、残して下さっていました。それらの書面を。
結果的に、こちらの考えた通りの添付書面だけで、3人のお子さんが納得できる名義変更登記を行うことができました。
遺言者であるお父様は、公正証書で遺言を作成するにあたり、司法書士などに相談をなさらず、直接公証役場に相談されたそうです。
確かに、普通はそれで問題ないと考えますね。
ところが、不動産登記に全く精通していない公証人に当たってしまうと、遺言者の書いたメモ通りに公正証書を作成し、果たしてその内容で実際に登記ができるのかを考えることをしないのです。
この事例のようなことが起きないよう、例え公正証書で遺言を作成する場合であっても、相続手続きの専門家である司法書士に依頼をされることを強くお勧め致します。